中川達夫 1st写真集 星稜剱岳 について
はじめに
4歳から富山で生活していると立山連峰の存在が大きい。富山市内から東方向に屏風のように山々が広がっている。なかでもひときわ目に付くのが「剱岳」。きっちりした三角錐の山容は、富山平野のどこからみてもすぐわかる。物こころがつきはじめて星に興味を持ち始めて、これが山で見る星空が繋がったのはごく自然のことだったかもしれない。そしてこの星空を写真も撮し始めたのはごく自然のことだった。剣岳をメインに星空の風景を撮し始めて約20年。これまでも剣岳をみながら流星群をみたり、低緯度オーロラを撮したり、月明かりの紅葉を愛でたりしてきた。機材も35mm判から645、67、4×5、そしてデジタルと多様化して星空の写真だけでも1000枚を越えるようになってきた。いつかは1冊にしたいと思ってはいながらも通常の仕事に追われなかなか踏ん切れないでいた。そんなか2007年、剱岳の測地百年の記念行事や当時のドラマを映画化する情報も流れてきた。一方フィルム写真とデジタル写真と両方の台頭で機は熟したと感じてきた。残務が一息ついた2008.1月末。出版にむけて動き出した。
 
出版方法
出版にあたりどこでどのような形で出すかが今後を左右する一番重要なところである。まず考えられるのは色々な写真集をだしている出版社への売り込みであろうか。ここで問題なのが大衆に売れる企画であること。いくら「良い写真」でも売れないことには取り合ってはくれない。しかも営業サイドの売れることのへ企画方針が優先され、写真家の思いとは違った方向に編集されてしまう例を仲間の写真家から話を聞かされていた。意に反した写真のセレクトや思いもかけない色出しや写真合成など、蓄積の成果がだせないと感じていた。初めて出す写真集は、出来ることは自分で手がけたいと思っていたので、今回は候補からはずした。一方自費出版でも、大手出版社の自費出版部門と自費出版専門社また地元出版社などが候補にあげられる。大手出版社では、それなりの知名度からして出版後の取扱いが他よりも良い点が考えられるが、自分で納得できるものにしようとする場合にどうしても打ち合わせに距離と時間を感じるところで最終的に妥協してしまう気がした。次に地元(北陸)のなかで各社候補が考えたところ、以前季刊雑誌への写真提供で繋がりがあったこと・自費出版にも実績をもっていることから最終的に決定した。
 
経過
2008.1月中旬にアポをとり1月末に企画内容について打ち合わせ。その後2月20日まで2回に分けてポジ原版の入稿。3月上旬に原稿の入稿。具体的なレイアウトについて幾度か出版社に足を運びイメージを形にしていった。校正は4回、これ以外にも色補正については何度もMLでやりとりをした。最終的には9回、出版社に足を運んだことになった。結果的にはこの出版社を選んで正解だっただろう。校正・レイアウト・印刷・販売が一貫しているところだったので話が飛ぶことが少なく小回りも利くところがなによりであった。これは大手出版社ではできなかったことであろう。特に星の写真集などを手がけたことは少ない業界と思われるので色具合を合わせるのに思いのほか時間を費やした。
構成
自分自身でイメージをもっていたので全体の構成、各ページ割り、写真のセレクト、各写真の配置 ならびにレイアウトについては全て自分でおこなった。出版社のデザイナーから文字割りについての助言をいただいた。写真のセレクトは5部構成の中で撮影地がなるべくバラけるように、同じような写真を避けるように選択した。これは十分ストックがあるからこそできた結果でそれぞれのカットの影に類似作品が数点あることになる。内容的には自分で満足できるものになった。ただ時間の関係で全部の作品の仕上がり(色出しなど)に満足することができなかった。メインである写真に時間を割かれ少々不満の残る写真が数枚出てしまったのが残念である。まだまだ星の写真はお任せではいけないものといえそうだ。
 
サイズと価格
できれば大型本(少なくともA4サイズ以上)で出したいのは本音のところ。ただ冷静に考えた場合、この写真集をどうしたいか の方が重要である。大型本でりっぱな写真集になったところで(価格は少なくとも2500円以上見込まなければならない)誰が買うのか?を考える必要がある。気に入った写真集は買っている方だが大型本で買うにはかなりハードルが高い。これが1500円以下であれば、このハードルは低いモノになるのでないか。そうなるとサイズも自ずから限定されてくる。書店などでの扱いを考えた場合、あまり奇抜なサイズの本は嫌われる。ここは既存のよくあるサイズで決定。
 
用紙
写真集の紙質はコート紙・グロス紙など表現する写真の内容によって違っている。自分の手持ちの写真集を元に具体的にどう表現したいのかを出版社の印刷サイドと協議。星がきれいに見えるように白のクリア度の高い紙を、インクもダークの表現に強い種類を選択している。今までの写真集にありがちだった日に焼けて変色したり、表紙の縁がよろけたりすることの少ない紙質で紙厚も1ランク上げて長く使っても品質の低下のすくない本に仕上がっている。
 
ねらい
これが構想の上で一番重要なところ ねらいがはっきりしたものでないと中途半端な仕上がりになってしまう。今までも星の写真集は出版されていたものの同じような写真が多く撮影表現として確立したものがなかった。そこで星空の表現方法として多彩なパターンを取り入れて星景写真としてのガイド本としての位置づけを狙いのひとつとした。写真集の目次の最後に「星景撮影」の項目を設けている。また各写真の下部に撮影dataを入れている。写真集によってはdataを後半部分に一括して掲載している本もあるが見ていて勝手の良いものではない(正直見づらい)。各写真に付属させるにあたりなるべく控えめに小さく細めにレイアウトしている。次にこのままでは、剱岳星景作例集になってしまうので自分が星空の中で感じたことを文面で表してみた。各写真に付属させるコメントのほかに100から200字程度の文章を12箇所に配列した。この文章をつけることで写真集に深みがついたものと考えている。約20年間の蓄積により獅子座流星群・ヘールボップ彗星・低緯度オーロラなど貴重な写真も折り込み科学的にも残せる内容となっている。
 
価格
前出のとおり価格帯ありきで進めてきている。具体的には2冊購入しても3000円以下 1冊1400円(税込み1470円)で単純に決めた。税込みで1500円ちょうどにする案もあったが、今後消費税があがる可能性が高くそうなった場合古さを感じてしまうので税抜きのキリの良い数字にしている。ただ出版社と話を進めていくうちに頁が増えたり表紙の仕上げなど価格決定後に経費が増えてしまい結果的にはかなり格安な定価になってしまった。一番の目的である星空の世界を多くの方々に知ってもらいたいことに繋がるので収支のことは気にしないようにしている。 
 


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